読書レポート_三谷/No31
- 2019年08月31日
- 三谷 浩之
『売上を、減らそう。』 中村朱美 著
最近メディアにも露出している京都のステーキ丼専門店「佰食屋」の中村朱美さんの著書。普通の会社とは違った視点で興味深い経営をしている。タイトル通り中村さんの佰食屋では売上を増加させようとしていない。大雑把に言うと決めた数量を売ればそれでおしまいというスタンス。経営的に言えば、粗利ー経費を計算してそれに必要な分だけを売るという考え。言い方を変えれば従業員の給与分と会社運営経費をまかなえればそれ以上多くを望まないということとなる。未来の個人会社の成長よりは現状維持をどれだけ効率的に実現するかという点を重視している。その考えによって売る数量は1日100食だけ、お店の開店時間はランチタイムの3時間半程度。それ以外の時間は仕込みと片付けのみなので従業員の労働時間は極めて少ない。一般的な飲食店なら休みも少なく、残業もあるだろうがこちらの店ではそれはない。私は食べたことないがメイン料理のステーキ丼はとてもおいしそうだ。きっと夜営業をしたり、ランチ時も売る数量を増やすキャパはあるはず。しかしそれで売上粗利が増加すればその代償として従業員を増やし、残業が増え、がんばることに疲れていく可能性もある。理想と理論で言えば会社が成長し売上、利益が増えれば、社会には納税でき、雇用を生み出し、各従業員の年収も上がる。経営者としては常に矛盾する相反する二つだがこのどちらにバランスを置いて経営するかという議論となる。佰食屋は完全に量による成長を捨て、今いる従業員が無理せずに働きやすい環境を優先している。一見この瞬間のこの部分だけにフォーカスすれば従業員にはホワイトな会社だが、長期的視野で言えば会社自体の成長が少ないということはそのまま従業員の給与は上がらないことを意味し、会社も個人もストレッチが効いていないから強くはならない。仕組みで勝てている間はいいが外部環境の荒波が押し寄せてきた時には厳しい選択も予測される。無理をしてまで仕事はしたくない、何よりプライベートと家族を優先したいという価値観と、困難にぶつかっても進み、夢を形にするために多少の犠牲を払っても成し遂げようという価値観。結局どちらが正しいというわけではなく経営者が描く価値観の違い。無理に売らないで仕組みでお客様に買っていただくという考え方の当社と似ている部分もあるが、当社の場合はその先のさらなる成長戦略を持っている。その分ストレッチを効かせて自己鍛錬することも必要となる点が大きな違いだが、我々と似ている部分の考え方は経営の参考にしたい。個人的には共感できて考え方はとても素晴らしいと思う。