読書レポート_三谷/No27
- 2019年04月30日
- 三谷 浩之
『ものがたりのあるものづくり』 山田敏夫 著
著者はアパレル業界において既成概念を取り払い、古い常識を超えて新しいものづくりの考え方を現実にしていっている会社の創業者。本当に良い服をつくるためにはどうすればよいかという一点に集中して今までの当たり前の枠にとらわれず突き進んでいる姿には、同じ起業家である自分としてはとても共感できる。成熟した産業で後発組として起業した時に必ずと言っていいほど「今までそうだったから」「それがこの業界の常識だから」という壁にぶつかる。今まで業界で積み上げてきた全てを破壊する必要はない。多くの経験と失敗を重ねてきて今のやり方ができているはずなので、それはそれで尊重すべきだし年月という財産だと思う。しかし時代の流れと共に環境が変わり、当たり前の感覚も変わり、ツールが変わり、技術が変わる。そうなった時にそれに応じて変化していくことは大切なことだ。そしてその変化の中で正当な競争原理が働き、切磋琢磨することでまた新たな価値が生み出され、お客様にはさらに良い商品やサービスが提供できるようになる。だから変えるべきものは変え、意味も無く続いていることにはいつか決別して進化、変化をしなければならないと思っている。アパレル業界の場合は、店舗があって、セールがあって、メーカーが企画したものを工場が物を作り流通を商社が担う。その場合において良い服を作るために最も重要なのは工場だ。直に服を作っているのだから当たり前である。しかし日本人のほとんどは、自分の着ている服のメーカーは知っていてもどこの工場でどんな人が作っているかは知らない。そこをフォーカスすることがないために考えたこともないだろう。しかし一番重要なのはそこだ。そこが主役となれば流通コストも下がり、本当に良い商品が生まれる。今いる全員必要だが、どこがイニシアチブをとるかで価格、品質だけでなく働きやすさなどがガラッと変わる。そこで著者は工場に焦点を当てて洋服づくりの根本から見直し、市場に良い商品を的確な価格で提供しようとしている。常識の壁を打破することに多くの苦労をされたようだが、業界に一石を投じるためにはそれほどの熱い想いと不屈の闘志が必要なのだろう。しかし前を向いてやり続けていれば少しずつ志に賛同してくれる仲間が増え、理想が形になっていっている。経営者として仕事のやりかただけでなく「何かを為す」という存在価値を改めて考えさせられた学びが多い一冊である。本質を見て、どうすればよくなるのか、お客様が喜ぶのか、働く人が誇りを持てるのか、それらを見つけ出し実現していくことは、後発組である若手経営者の使命なのかもしれないと感じ考えさせられた。